【会員レポート】では、本協会会員の皆さまから寄せられた防災教育実践報告などをご紹介しています。掲載をご希望の方は、事務局まで情報をお寄せください。また、レポートを掲載された方へのご相談や講師派遣依頼につきましても、事務局までお気軽にお問い合わせください。
情報提供者:小笠原 潤(岩手県立宮古北高等学校) 様/個人正会員
活動実施日:令和3年12月~令和4年1月
情報提供日:2022年1月21日
連絡先:TEL. 0193-87-3513
準備の段階
● 実践・実施のきっかけや経緯
東日本大震災発生当時、まだ小さかったり生まれていなかった子供達が高校へ入学してくるようになる事が予想され、地域に根ざした防災・減災についてどのようにして伝え、考えてもらうかを工夫していく必要を感じていた。一つの方法として、インド洋大津波と東日本大震災に関連する162編の小論文を教材とすることで、その想いや考えを現在や未来の高校生に引き継ぎ、新たな行動へ繋げていきたいと考えている。
● 計画や準備で気をつけたこと
元になる資料(2021年11月22日付けの【会員レポート】参照)は、岩手県沿岸の被災地にある5つの高校(宮古、山田、久慈東、岩泉、宮古北)において、震災当時高校2年生だった生徒から保育園年長だった幼児まで(12学年分)の震災を体験した高校生が、震災時や震災復旧・復興時にどのように想い・考えたかを600字の小論文で記載したもので、全162編ある。それらを6つのテーマ別に30~36編にまとめることで、被災地の子供達の想いや考えを次世代や体験していない人達に分かりやすく継続して伝えていけるように教材化した。
実践の段階
● 実施した内容
今回6つのテーマのうちの『セレクト4(人間と自然との共生)改訂版』について、宮古北高校の全校生徒に対し、「理科の冬休み課題」として実施した。(教材資料、および実施結果をまとめたものを添付)
● 実践中や、実施後の参加者の反応
東日本大震災に対して、自分達と同年代の頃の先輩達が、大人とは違う視点から感じた想いや考えを知ることで、自らの体験や学んだ知識と合わせ、自らの想いや考えを発展させることができたと思われる。
▼ 実践結果の一例
令和3年度 理科の冬休み課題(小論文)
今回、1~3年生の理科の冬休み課題として小論文を提出してもらいました。内容は、東日本大震災が発生した2011年から現在(2021年)まで、被災地域にある4つの高校(宮古高校、山田高校、岩泉高校、宮古北高校)において生徒の皆さんに書いてもらった『人間と自然との共生』に関する小論文の一部をまとめたもの(30編)の中から1つを選び、以下のA~Cについて書いてもらいました。
A:あなたの選んだ小論文の筆者は、どういう想いでこの文章を書いたと思いますか? あなたの考えを80字以上~100字以内で述べなさい。
B:あなたが共感したのはどういう所ですか? 80字以上~100字以内で述べなさい。
C:あなたが選んだ小論文を読み、これからあなたができることを、260字以上~300字以内で述べなさい。
提出してもらった中から、「そんな想いもあるんだ」や「そういう視点もあるんだ」という内容の代表的な小論文を、皆さんにもお知らせしたいと思います。
教材_令和3年度理科の冬休み課題小論文
(1)(令和3年度宮古北高校1年 Sさん)(震災当時、年中)
A:「筆者は、どういう想いでこの文章を書いたのか?」
自分が津波で経験したことを生かして、もしまた同じようなことがあっても、その時にどうすればもっと良く・早く逃げることができるか、そしてもっと人が助かるようにできるかを考えている。
B:「あなたが共感したのはどういう所ですか?」
共感した所は、誰もが行ける高台の見晴らしの良い所に公園や広場を造るという所です。誰もが簡単に行ける場所ができれば、災害が起こった時に、小さい子やお年寄りでも安全に早く避難できるから、とても良いと思いました。
C:「選んだ小論文を読み、これからあなたができることは?」
これから自分にできることは、また災害が起きた時のことを予測して準備しておくことだと思います。事前に、逃げる時に持つ荷物の準備や避難経路を確認しておけば、逃げなければいけない時にすぐに逃げることができ、命を守ることができると思います。
この小論文を読んでみて、山田に住んでいるからすごく分かった所があったし、著者は、山を崩した後のことまで考えているのが、すごいと思いました。
選んだ小論文
(震災当時、小4) 『身近な自然環境を活用した防災・減災』
私は自然環境を活用するということで、山田の地形を活かした建物を造り、避難できる場所の整備が必要だと考えます。まず、山田は平地が少なく、山が多いです。その特徴を活かしてより高台への住宅再建が可能です。その為には山を切り崩さなければなりません。山が減れば反対する人達がいるかもしれませんが、その山を崩して出た土を海側の誰も住まない所に持ってきて、新たな苗や木を植えればいいと考えます。また、誰もが行ける高台の見晴らしの良い所に公園や広場を造ることができればいいと思います。私が実際に小4の時に経験した津波では、高台に上がる所が無く、ただの山の中を1~6年生まで泥まみれになりながらも駆け上がったのを覚えています。その時、後方から波がすぐ近くまで来ていて、電柱や家も自分達の方へ勢いよく流れてきました。そんなことがないように、誰でもすぐ上がれる広場があるといいです。また、小学校から家へ帰る時に松林を通って帰っていましたが、海沿いにすぐ松林があったおかげで助かった家も船越地区では多いと思います。
なので、山を崩した後の土や木は、海側に持ってきて盛り土をし、さらに松林のような自然環境を造ることが必要だと思います。防潮堤だけでは守り切れないところを林が守り、さらに家が高台にあることで、少しでも被害者や被災する建物などを減らすことができると思います。
継続の段階
● 課題に感じたこと
上記『実施した内容』について、対象者である宮古北高の生徒達は、震災当時小学校1年生から保育園年中であったので、幼いながらも震災の記憶や、その後の復旧・復興時の体験や小中学校での学びがあったと思われる。そのため、地元の身近な先輩達の想いや考えに共感する点が非常に多かったと考えられる。それは、被災地の子供達の想いや考えを、被災地の次世代の子供達につないでいくという面で非常に効果的であるが、反面、他の地域の子供達に伝わるかどうか一抹の不安を感じている。
しかしながら、中学・高校という多感な時期の子供達はもちろん、多くの人が共感力や想像力を持っていることも疑いのないことなので、この教材が防災・減災教育や復興教育に役立つことを信じたい。
● これからの期待や展望
教材化した資料を各地の中学・高校の「総合的な学習(探究)の時間」やNPOのワークショップ等でより多くの人に活用してもらうことにより、南海トラフ大地震をはじめとする自然災害が想定されている地域だけではなく、想定されていない地域も含めたさまざまな地域における防災・減災教育や復興教育等に寄与していきたいと考えている。
カテゴリ:会員レポート